第二話 <No.7>


INS(慣性航法システム)の起源は第二次大戦の時にドイツがイギリスに打ち込んだV2ロケット だと言われている.それが,戦後の東西陣営緊張のつばぜりあいによる競争で発達した大陸間 弾道弾により改良され,宇宙開発計画のなかで完成されたといわれている.

その名がしめすごとく,INS の原理は慣性にある.物体が移動を始めるとき,止まったとき, スピードアップしたとき,まだダウンした時に生じる慣性によるものである.ドライブして いるときに急にブレーキをかけると前のガラスに頭をぶっつけるようになるし,電車が動き 始めた時や,止まった時に吊革をつかんでいる人達が一斉に不安定な動きをするのも,すべて 慣性によるものである.慣性とは,只単なる傾向ではなくて,頭をガラスにぶっつける度合 との間に密接なる関連がある.その度合とは加速度,減速度とも表現されうるもので,高速 で車が壁にぶっつかり停車したときの減速度は非常に大きなものであろう.

したがって,INS を構成するエレメントの一つは加速度計である.重錘にバネを結合し, 片側の バネの伸びと,それと反対側のバネの縮みを同時に測定できるようにすると,それが 加速度形としての働きをする.これによる測定値を電気信号によりコンピュータにおくり その値を時間的に積算すると速度が求められ,距離が判明する.INSの決定的な利点は これが完全に独立したものであり,地上の他の機器や機関による支援装置がまったく不要 で外囲条件に影響を受けることなく,どのような飛行姿勢でも正確にしかも連続的に速度 情報を供給し,しかもその速度情報が強い偏西風のふきまくっている高高度でも対地速度 として供給されることである.過去の航法がすべて対気速度に基ずくものであることを 考えるとその自己完結型の利点は画期的なものである.また,INSは高精度な姿勢,および 方位の基準信号を,連続的に航空機に搭載されている航法以外の機器にも供給され, したがって航空機の全システムの向上に役立っている.

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