第二話 <No.6>


昔の運航管理者のよき友は航空士であった.共に同じデータを扱う事からくる仲間意識 があったのかもしれない.運航管理者は運航規定によって決められたルートチェックを 定期的に行わなければならなかった.その際にコックピットにお邪魔する訳だが, やはり一番の関心事は航空士の仕事ぶりに集中した.航空士じゃなくて,航法士が より正確な呼称かもしれないが,要するにナビゲーターである.

航空に多少とも興味のある方なら,航空機の航法には 地文航法 天測航法 無線航法 推測航法  グリッド航法 慣性航法 広域航法などがあるのをご存じだろう.昔は これらの中で 地文, 天測,無線,推測などが航法の主体であった.乗員のなかで天測ができるのは航空士のみで, 彼の独壇場であった.

昔の旅客機のコックピットの上には天窓があり,そこに六分儀をセットして 航空士が天測をしていたものだ.もちろん,天測をしたくても雲の中や下をとんでいば星などが 見えないのでその時は他の無線航法や推測航法などが行われていた.この際の推測航法のベースと なるのが運航管理者の作成したフライトプランであった.事実,当時のコックピットでは見た目には ボーっと 前方を向いている二人のパイロットの背後で航空士が,自分の椅子の上にのりながら天窓の六分儀 にかじりついたり,机の上のチャートの上で分度器やコンパスを駆使しながらコマネズミのように 働いていたのが印象的であった.

その彼等がコックピットから消えた原因の一つが慣性航法で ある.この慣性航法はそれまでの航法とは全然違った航法で,なにが一番違うかというと全然 外部要因を必要としない,つまり,すべてを自分自身の働きで解決する....というところにある. すなわち,目でみえる地形も必要ないし,電波施設も天体も必要ない,というところにある. 不幸にして起きた大韓航空のソビエト空軍による撃墜事件で,多くの人が慣性航法のなんたるかを 知る機会はあったが,ここでごく初期の慣性航法システムの概要を簡単に説明することにしよう.

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