台風の眼
  このようにして誕生した熱帯低気圧であるので、じょう乱の中心における下降流、それを取り巻く積乱雲中の上昇流、中心の回りの回転運動のいずれを取っても際だっている。台風研究者の解析結果による典型的なモデル(TY-5図)が図化されていて、これらの状態をよく示している。この図ばかりでなく、大気中の現象の図を見るときに注意することは、水平方向と垂直方向の距離の縮尺が極端に違う、ということである。この図で言えば、高さは一万メートル(10Km)位であるのに、水平の広がりは百キロメートルの単位である。
  モデルの風速分布でもよく判るように、中心付近では水平風の速度も速いが、鉛直方向の気流も入り交じっている。中心を取り巻いたドーナツ状の領域では激しい上昇気流による積乱雲がよく伸びている。それより中には、逆に下降気流になっていて雲はなく晴天域になっている領域がある。台風の「眼」と呼ばれ、気象衛星画像にはっきりと映し出されているのを見ることがある。
  この眼を取り巻く雲は対流性であり、その雲頂の高さは個々に違い、五千メートルくらいのこともあれば、一万メートルを越えるものもある。そのため航空路上に台風が襲来したときに、遥か上空に高度を上げてその影響を避けられることもある。ただこれは雲頂高度とか、激しい上昇気流や乱気流の存在域予測を一つ間違えると危険を伴う。余り近づき過ぎてからであると、横に離れて回避することも困難になってしまう。「コーヒーブレーク」で引用したアメリカ人機長の話のように、きれいな「台風の眼」をレーダーで見ることができても、台風観測という特別業務であれば別であるが、危険な行動であると批判を受けることになってしまっては困る。
  台風とは呼んでいても、陸地に上陸したりして勢いが衰えてくると、その勢力も普段出会うことのある温帯低気圧と余り変わらなくなる。この場合には通常の低気圧や、それに伴う前線活動に対するときと同じように、充分な注意を払いながら運航すれば危険は避けられ大丈夫である。
(C)2001 KATOW-Kimio

←BACK コーヒーブレイク