台風の眼を見損なった

  筆者がまだノースウエスト航空で、気象技師の駆け出しだった頃のことである。日本とフィリピンの間を結ぶ航空路付近に台風が来ていた。航空路から余り遠く離れていない辺りを台風が進んでいた。飛行高度を適切に採れば台風から吹き出す上空の雲や風の影響も少なく、乱気流にも会うことはない。機上レーダーで見ると台風の眼もきれいに捉えられていたという。そんな状況を機長(アメリカ人)が話してくれた後、「カトーさん、明日のフライトに乗って自分で見てみませんか」と言ってくれた。
  今と違って、当時はまだ日本人の海外渡航は自由でなかった。しかし業務上旅券は持っていたし、業務研修の目的での飛行機便乗は可能であったので、自分の眼で確かめに出かけるのにはなんらの支障もなかった。ただ、どのような事情であったか、この時は機長の提案を実現できなかった。その後はそれほど都合の良い機会はなく、やはりその時に体験・観察しておけば、生々しい経験ができて良かった、と今ごろになって残念に思っている。
  今では宇宙からの衛星写真や、宇宙船から撮影された美しい写真を、ふんだんに見ることが出来るようになった。
(この話続く/2001.10.16
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