熱帯低気圧の誕生  〜その1〜
  ここで改めて熱帯低気圧の発生論、と学術的な理屈を展開するつもりはない。ただその発生し易い場所と、その後の発達過程は知っておく必要がある。これまでに呼び方による違いはあるが、熱帯低気圧としては同じであると説明したので、これからは特に支障のある場合以外では「台風」として話を進めて行くことにする。

  熱帯低気圧の名前が示すように発生場所は熱帯地方(TY-1図)である。地理学では、太陽が真上に来る極限の緯度線が回帰線と呼ばれていて、北半球と南半球のそれぞれにある。日本付近では沖縄の南で、台湾の真ん中辺りを北回帰線が横断している。この南北両回帰線で挟まれた地域は、一年の間にはいつか必ず太陽が真上に来る時のある地域で、ここを熱帯地方と呼んでいる。また気候学などでは、一年の平均気温が20℃以上の地帯をそのように呼ぶこともある。
  いずれにしても太陽が一年中頭上近くを通るので、地表面は陸でも海でも熱せられて表面温度が上がる。海洋では年平均の表面海水温が26℃以上になるところができ、28℃以上になるところさえもある(TY-2図)。そこでは高温な海面と接して暖められた下層空気と、海面から供給される多量の水蒸気により、大気は条件付きながら不安定になっている。
  また南北両半球の低緯度(赤道に近いほう)には、高気圧が東西に長く延びて、広範囲に横たわっている。その両半球の高気圧から吹き出し、赤道方向に流れ出た空気が赤道の近くで出会って収束し、鉛直方向へ流れを変えることによって大規模な上昇流が出現する。 ここは熱帯収束帯 (Intertropical Convergence Zone - ITCZ)(TY-3図)と呼ばれていて、一年周期で南北に移動している。その上昇流の起こる領域がたまたま海面上で、そこが不安定な大気で充たされていれば、当然の結果として積雲が形成される(TY-4図)。さらに積乱雲にまで発達することもある。発達する積乱雲の頭を抑えるには安定層が欲しい。ところがこの地域の熱的安定層は、ほとんどの場合に圏界面より低高度には見当たらない。しかも熱帯地方の圏界面の高さは一万メートルを遥かに越えていることが多い。そのことは積乱雲の雲頂も一万メートル以上に達する可能性を意味している。その積乱雲中での降水過程に伴うエネルギー変換で得られた運動エネルギーが、「じょう乱」誕生の原動力になると考えられている。
(C)2001 KATOW-Kimio

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