向かい風・追い風シアの影響 〜その3〜
  ここまでの話のように、何れの場合にも、風シアの強さにより遅速の差はあるが、機体はそれまでの飛行高度から外れて行く。そのような風シアに低高度で、しかも低速度で突然遭遇したときはどうだろうか。操縦者自身の知識の多少、判断・操作の的確性や遅速がその後の結果に影響し、地表との空間的余裕が少ないほど重大な結末となり易い。
  また、ジェットエンジンでは、一般的な特性として、出力を絞るときの推力の減少は追随がよい。それに伴って意外に早く揚力が減少し、大きな降下率で機体が沈む。逆にエンジンの出力レバーを増加に操作しても、推力の増加が現れるまでには多少の時間的遅れがある。言い換えれば、揚力の増加には時間がかかる。(エンジンの設計基準による要請では、アイドリング状態から推力レバーの操作をして、 8秒以内で対応したエンジンの出力になればよいことになっている。逆に言えば、操作後これ位の時間的遅れは見込まれている、と言うことを考えに入れておく必要がある。)
  一般に操縦者は対気速度の減少には敏感だと言われている。これは追い風シアの場合には直ちに反応するということだろう。一方、着陸進入中に向かい風シアに出会って、対気速度が増加し、進入飛行面* より上に浮き上がったときはどうだろうか。操縦者はまず、着地点が前方へずれて滑走路の残りの長さがすくなくなり、滑走路を飛び出すことを懸念する。このためエンジン出力をさらに絞り、ピッチ角を下げる。(上にも述べたように)意外に早く速度が減少して、降下率が増加する。いわば「はずみ」がついたように一気に減速と降下が起こる。
  操縦者がこれにすぐ気づき直ちに回復操作を行えばよいが、他に行うべき作業があるなどの悪条件が重なると最悪な事態になる。都合の悪いことに、着陸のための進入中には操縦者がやるべき作業は多い。
(* この場合には飛行している間高度が変化しているので、飛行機の航跡を含む面を考えてそれを飛行面と呼ぶことにする。)

  別の章で示す現象のように、一地点から周囲へ風が吹き出す中を通り過ぎるときには、向かい風シアと追い風シアに相次いで遭遇することがある。この連続して起こる事実を知らなかったり、想定していなかったりすると困難なことになる。向かい風シアに対処する調整をしたつもりで減速した直後に、追い風シアに遭遇することになり、一段と減速が増加して揚力が急激に低下するので、直ちに対応しなければならない。
(C)2001,2002,2003 KATOW-Kimio

←BACK コーヒーブレイク