揚力と風    〜その2〜
  ここからの話を簡単にするために、飛行機の進行方向が風向と平行として、横風成分はないことにする。

  ここで「外から力を加えなければ、動いている物はその運動を継続する」という慣性の法則を思い出して貰えるだろうか。(慣性のことは多分小学校高学年か中学校の理科で習っている。)ここで地球に固定したO座標系で考えると、慣性の法則とは対地速度を維持するということになる。そこで風速が変動すれば、対地速度を一定に保つためには対気速度の変動となって現れる。これは図を見ると解り易い。(WS-12図)
  そのことは対気速度が変動するので揚力も変動する、という話になる。それなら揚力の式に当てはめて考えることにする。
  この式をよく見ると、揚力は対気速度の二乗に比例している。つまり対気速度が変化すると、揚力の変化する割合は単純な倍数ではないことが判る。これがこの式を持ちだして来た理由である。
  巡航高度での巡航速度すなわち対気速度は風速に較べて通常は大きいので、風の変動による対気速度の変動率としては比較的小さい。それなら揚力の変化は、変動率としてはさして大きくないと考えてもよい。しかし低高度において、特に進入着陸段階においては対気速度が遅くなっているので、その対気速度が変動すれば揚力の増減する比率は大きなものとなる。
  例えば、巡航高度 1万メートルで 450ノットの対気速度で飛行しているジェット機を考える。風速が 100ノットから 120ノットに変わったとする。この時対地速度が変わらないようにするためには、対気速度が20ノット変化する計算になり、これは約 4パーセントの変化である。
  一方同じジェット機でも着陸の時には 150ノットかそれ以下に速度を落としている。同じ20ノットの風速変動でも、対気速度は13パーセントかそれ以上の変動をすることになる。
  揚力の増減は対気速度の二乗に比例するから、対気速度が 4パーセント変わったときと、13パーセント変わったときとでは、揚力の変動にもっと大きな差が現れることが想像できると思う。同じ風速の差(この例では20ノット)でも、対気速度が遅い飛行段階では大きな影響が出る、ということである。

  風の変動すなわち風シアにはいくつかの種類があった。種類の違いによる機体の動きに現れる影響の違いについては、これから順番に見て行くことにしよう。
(この話続く/2002.1.10
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