揚力と風    〜その1〜
  風シアが飛行機の運動をどのように変え、その変化により飛行機の安全な飛 行は継続させることができるのか。あるいは、どのような処置を行えば安定した飛行を継続して、搭乗者に危害を及ぼさせないように出来るのか。その結果乗客としては安心していられるのか。これらの事柄に話を進めるためには、もう少し予備知識が要る。ここで話を続けるためには航空工学の知識が必要になる。その方面には専門外の筆者ではあるが、今までに理解した範囲内でシアに関連しては充分に説明できそうである。

  大気中における(翼を持った)飛行機の運動理論を力学的に扱うときは、(動いているのかも知れない)大気に固定させた座標系を使って考える。飛行機の速度は(大気=座標系が動いていることは考えずに)この座標系の中だけで考えて定義すればよい。その中での速度が「対気速度 Air Speed」と呼ばれている。(WS-8図)
  飛行機が空気中を安定して飛行しているとき、この飛行機に働いて均衡を保っ ている力は次の四つであるとされている。(WS-9図)
推力、 抗力、 重力、 揚力。
  飛行機の運動を考える場合、通常は翼についての流体力学を適用する。(WS-10図)で見るように翼の上下面で空気の通過する距離が違うので、上下翼面沿いの空気の流れに早さの違いが出る。それによって翼面の上下で圧力差が生じ、翼弦に対し上方に向かう「翼の空気力」と呼ばれる力となる。(物理学で「ベルヌイの定理」と呼ばれている原理による。)この空気力を翼の進行方向(気流の方向)に平行な成分と、それに直角な方向の成分の二つに分ける。前者は進行方向とは反対向きの力であって翼の「抗力Drag」となる。また、後者は翼を持ち上げる力、翼の「揚力Lift」である。抗力は動力機関が出す「推力Thrust」と釣合い、地球による「重力Gravity 」に対抗する揚力で空中に浮いている訳である。
「揚力=1/2・揚力係数・空気密度・主翼面積・飛行速度の二乗
ここで飛行速度は対気速度を採る。」
  後での話で重要になってくる「揚力係数」は翼型および、翼面の疎密度によって値が決まるという。また仰角が変われば値が変化する。端的にいえば仰角が増えるにつれて増加し、ある角度を超えると急激に低下する。(航空工学の研究者・技術者はこの係数を増やし、揚力の効率を挙げるためにいろいろな翼型や素材に苦労している。)(WS-11図)
  風とは、前にも述べたが地球表面を基準とした空気の運動である。WS-8図に示すように、地球に固定した座標系(O座標系)に対し、飛行機を取り巻いている大気に固定した座標系(O’座標系)の動き、として考えることができる。言い換えると地球上から見た飛行機の動きは、地表面に対するO’座標系の動きとしての風のベクトルと、O’座標系の中での動きとしての対気速度のベクトル、の合成である「対地速度 Ground Speed」のベクトルを見ていることになる。
(C)2002 KATOW-Kimio

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