乱気流事故防止への試み
 乱気流による傷害事故に端を発し、一企業内において行われた安全運航対策の一環としての、乱気流事故防止に向かう歩みがある。この試みをここで詳細に紹介するつもりはないが、ただそこから出てきた対策は甚だ常識的とも言えるもので、基本的とも言える。
 航空における気象実務に携わる者として可能なことは、要するに日常業務に必要な気象現象を捉え、それによる悪影響への対策を試行錯誤によってでも実行することである。その際学術的な裏付けについては、学者や研究者に任せることにすればよい。しかし行政の対応には、とかく学術的に解明されて、理論的に裏付けされた事柄でないと、実行に移されない傾向がある。そこで利用者は自力で可能な対策のみに限定して行うほかはない。いずれにしても現場は立て前による遅延を待ってはいられないものである。
 このようにして乱気流の発生しそうな領域が予知されたら、出来るなら回避する。目的地へ行くために横切らねばならないなど、回避が実情に沿わないなら、別の手立てによらねばならない。そこで、航空機がその領域を通過する数 分ないし数十分の短時間だけ、搭乗者が意思に反して動かされること、言い換えれば座席から放り出されないようになっていれば良い。つまり、座席ベルトなどによって座席に固定しておく必要がある。
 こうすれば乱気流に遭遇しても、少なくとも負傷者はなくて済むはずである。ただこの間行動の自由が制限され、快適性が損なわれることになる。そこで、座席に固定される時間はなるべく短く、必要最小限であることが望ましい訳である。この時間が必要以上に長かったりして、慢性的になると、この安全策も無視されることになり、人身事故はなくならない。このためにも、乱気流発生予想域についてはかなりの精度において把握されなければならない。
 とにかくこうした対応がなされれば、航空機が乱気流に遭遇したとしても、人身障害事故は避けられる。実際しばらくの間は人身事故の報告は聞かれなかった。しかし人間は状況に慣れてしまうと、思わぬ油断が出てくるものである。再び乱気流による事故の話を聞くようになった。

 このシリーズの初めの方でも話したように、乱気流に遭遇しないように運航していると、最新型の飛行機は乱気流には影響されないのだろうから、対策に時間や経費を掛けるのは無駄だ、と考える人が出てくる。そして手数のかかる手順は省かれ、省力化と称して担当する人員も削減される。そしてそのツケはいずれ当事者に廻ってくる。
(C)2001 KATOW-Kimio

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