乱気流域の予知や予想と回避方法 〜その1〜
 ここまでいろいろな気流の乱れについて紹介した。この内の幾つかはおのずから存在の予測がつきそうである。ただ実際に乱気流として作用するかどうかは、前にも指摘したように航空機の種類や飛行の状態により異なる、などと複雑な事情がある。
 そこで気象の立場からの乱気流の予測は、乱気流発生の「警戒域」として提供するに留まることになる。その空域には「学術的・理論的裏付けもされた、過去の統計や経験で乱気流として作用したのと同じような条件」の気流が存在する、ということだ。その空域で実際に当該航空機に影響するか否かについては、運航当事者が判断することになる。
 運航当事者は限られた機種の航空機の面倒を見るだけで済むが、気象専門機関の予報者は、より広い範囲にわたる種類の航空機に対して目を配らなければならない立場である。その上気象の予報者は気象環境については専門家であっても、種類が多岐にわたる航空機の性能については専門外だろう。

 それではまず気流の乱れ個々の原因や成因について見直しておく。

 対流雲によるものは、それらの雲が発生する可能性のある地域を予測することになる。これは従来からの雷活動の予報方式を利用すれば良いはずである。運航する立場からいっても、視界内に対流雲を発見したときは、大きく発達中のものなどには特に気を配って、回避しながら飛行することである。この場合に問題なのは、夜間であるとか雲中飛行であって、対象とする雲を見つけ出すことができないときである。幸い気象レーダーというものが使えるようになり、それを装備している機種では、対流雲の存在はある程度掴めるようになった。ただし通常の航空機搭載気象レーダーは、雲中の水分(多くの場合は降雨)の量により反射する電波の強さから、その雲の規模や発達具合を推定できるが、乱気流になる乱れが存在するかどうかが直接判るわけではない。いずれにしても、対流雲の中に入らないのがいちばん安心である。

 航跡渦は航空機それも飛行機が飛ぶときには、主翼による揚力の発生に伴って必ずできるものである。考え方によっては飛行には不可欠といえるものでもある。大型の飛行機が造る航跡渦はその規模が大きく、強さもあるので、その後に続く航空機に運航上の制限を設けている。計器飛行をしている航空機に対しては航空交通管制機関から指示があって、その制限が守られていれば航跡渦による乱気流遭遇の危険性は少ない。それでも滑走路上で上空から降ってきたり、前に出発したり到着した飛行機の残していった航跡渦の影響を受けることがある。しかし問題は目視飛行を常用していて、しかも気象を始めとする最新の知識情報を余り入手する機会のない、自家用機などの運航や操縦の当事者である。前に挙げた航跡渦による事故の犠牲者は、実際にそのような人であったと聞いている。

 次には建築物や建造物の影響によるものであるが、離着陸時での乱気流との遭遇の可能性は、飛行場それぞれの立地条件によって固有の傾向が出る。市街地に大きなビルディングが建設されると、それまでなかった強いビル風が吹くのを経験することがある。しかしその風ものべつ幕なしに吹いているわけではなくて、ある一定の気象条件のときに強くなるということなどが次第に判って来ている。そのようなことが判れば、その条件のときの対応を考えれば良いことになる。飛行場近辺においても同じことが言える。長い間に蓄積された経験則のようなものが体得され、申し送りされていくことによっても現象の予測ができる。別に学術的な裏付けなどがなくても実行できる。理屈を付けなければ気の済まない人は、難しい理論をひねくれば良いことである。その上で正確な情報を適時に提供してもらえれば申し分がない。
(C)2001 KATOW-Kimio

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