航空機への落雷  〜その1〜
  この章の始めの方で、雷活動には電気的な現象も存在することを話した。電気的な現象をもたらすのは対流雲が積乱雲の段階になってからである。というよりも観測の取り決めからすれば、対流雲の中に静電気が発生すれば、雲頂が10キロメートルに達するほどになっていなくても、積乱雲と呼ぶことになっている。
  雲の中で静電気が発生する過程についての話はここではしない。すでに知っている人は多いことと思うが、雷雲中における典型的な静電気分布の図を示すことにする。この図で判るように、雲頂と雲底では互いに符号の違う電荷が集まっている。また雲底の下の地表には、雲底に集まっている電荷とは逆の符号の電荷が帯電している。
  空気を形作っているそれぞれの気体分子自体は絶縁性が高いので、容易には電流を流す役目は果たさない。そのため、両方の電荷はかなり高い電位差になるまで集まり続けている。しかし一定限度以上の電位差になるか、間に通電性のある物体が入り込むと、一時に電荷が流れて電気的に中和する反応を起こす。これが放電である。ここでは電気的な数値を挙げるのは止めておく。関心のある人は雷を扱った専門書で調べると良い。
  放電が地表や空中の物に対して行われると「落雷」と呼ばれる。空中にある物が航空機であればそこへの落雷は、たとえそれによって墜落などが起こらなくても、日本の航空法では航空機事故の一つとして数えられ、所定の報告をすることになっている。
  1970年代までは飛行機を作っている材質のためか、落雷した痕はひどかったという。雷が入った個所(放電流の進入口)は小さな穴が開いただけであるが、その裏側は大きく裂けていたという。残念ながら筆者は見る機会がなかった。その後次第にその様な話は聞かなくなった。時折、落雷による大電流の流れた痕らしい、機体に付いた黒く焦げた筋などは報告される。近来は雷の電流は機体の外皮に沿って流れる構造になっている。このような現象を沿面放電と言うそうである。
(C)2001 KATOW-Kimio

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