大気の安定・不安定  〜その2〜
  ところで大気中には普通は水分が含まれている。水分の形として、液体状態としてのいわゆる水(雨・霧・雲)、固体である氷(氷晶・雪やあられ・ひょう)など目に見える場合は解り易い。しかしこの他に、目には見えにくい気体である水蒸気が交じっていることを忘れてはならない。
  ここでは水分としてその水蒸気だけを考えよう。空気中に含むことのできる水蒸気の最大限界量は気温によって決まる。気温の低いほど限界量の値は小さく、気温が高くなると急激に大きくなる。厳密にいうと気圧にも関係してくるが、ここでは考えないことにしよう。ある気温における限度いっぱいに水蒸気を含んだ(湿度100%)空気の気温が下がると、新しい気温に対応する限界量を越えた分の水蒸気は、水(ときには氷)になって吐き出されてしまう。要するに定員を超過すると部屋から閉め出されるようなものである。このとき水への凝結(または氷への昇華)の潜熱も出すので、周りの空気を暖める効果も発揮する。このため湿った空気が上昇して気圧が減少したことによる温度変化(「湿潤断熱減率」と呼ぶ)は、乾燥断熱減率よりも小さい値になる。湿潤断熱減率の値は気温と気圧によって大きな違いがあるので、正確な値は図表からその時の気圧・気温・湿度に応じた値を読み取るのでなければ判らない。
  このように、乾燥断熱減率か湿潤断熱減率のいずれを当てはめるにしても、下から空気を持ち上げて行ったときの温度が、もともと上にあった空気の温度より暖かいようなときを「熱的不安定」という。
  実際の大気中では温度の平均的な下がり方が、前にも挙げたように、日本付近においては 6℃くらいである。時には乾燥断熱減率の10℃に近い値になっていることもあるが、このようなときは特別に強い「上空の寒気」と言える。しかしこの場合でも、この状態のままでいては「不安定」ということではない。普通の状態における大気の塊(気団)の中では、だいたいにおいて「熱的安定」 なのである。
(C)2001 KATOW-Kimio

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