大気の安定・不安定  〜その1〜
  山道を登って行くと、高度が上がるに従い気温は徐々に下がることは、誰でも経験して知っているだろう。それでは、高度が増えるに従って温度が下がることと、これまでに解った様な、温度の高い空気が上にある方が熱的には安定である、ということとの関係はどうなっているのか気にならないだろうか。
  同じ地点でも高度の違う空気の温度を測ってみると、確かに高度の低い方の気温の方が暖かくて、高度が千メートルごとに 6℃くらいずつ下がって行くのが判る。高度に対する気温の下がり方(気温減率と呼ぶ)は日により、気圧配置とか天気分布の違いに伴っていろいろと違う。時には高度が高くなり気温も暖かくなる、とかいつも同じ経験をするとは限らない。
  それでは気温減率(千メートル当たりの数値が慣例)が 6℃もあって上空の気温の方が低いなら、大気はいつも不安定のはずではないのか。それなら雷だってもっと頻繁に発生してもよいはずだろう。それなのに「大気が不安定」になると警告されるのは時々しかない。こんな疑問が出てきても不思議ではない。
  その疑問を解く鍵の一つを次に話す。ここで測定しているのはその場所での 空気の温度(気温)であるが、その場所の空気の圧力(気圧)も測定しておき、両方を一しょに考えなければいけない、ということである。なぜかの理屈は (もう忘れてしまったかも知れないが)理科か物理の授業で昔習ったのではないだろうか。簡単に復習すると「ある適当な分量(質量)の気体を取り、それ を圧縮すると温度が上がり、逆に膨張させると温度が下がる」ということである。
  海面からの高度が上がれば気圧が減り、つまり空気は膨張したことになり、今言った理屈によって温度が下がることになる。乾燥した空気を持ち上げて行ったときの温度の下がり方の量(「乾燥断熱減率」という)は、計算によると10℃になる。山登りして高度が上り気温が低下しても、それはたかだか 6℃位であり、海面近くの空気を持ち上げたときの気温低下よりも少ない。言い換えれ ば、海面の気温より暖かいことになる。これでは空気の不安定な重なり方になっているとは言えない。これが日常的な状態なのだ。
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