台風とTyphoon
  昭和30年代の始め(1950年代後半)、筆者が航空会社で気象の現業業務に従事し始めた頃の話である。南方海上を西進中の「弱い熱帯低気圧」の勢力が強まり「台風」に昇格となった。同僚のアメリカ人気象技師は奥さんが日本人だが「ワイフがタイフーになったと言っている。まだトロピカルストーム(Tropical Storm) だよな」と話しかけてきた。
  これは「熱帯低気圧」に対する、気象庁が決めた日本語での定義・名称と、国際的に使うための英語による定義・名称の違いがもたらした実話である。この定義の違いは現在でも続いている。そして、日本語での定義についての詳細は知らないが、英語による熱帯低気圧の分け方を知っている外国人には、「タイフー」と聞くと大変な嵐が来ると思い、日本人が考える以上に警戒の念を抱かせることを示している。
  このことは表(TY-1表)を見てもらえば判ると思う。東アジア以外の地域で使っている名称も、英語のままにして敢えて日本語にしていない。
  表で判るように、日本語の「台風」と言う言葉は、熱帯低気圧のうち中心付近の最大風速が34ノット(17.2メートル毎秒)以上になったもの全てに当てはまる。これに対して国際的には、64ノット(32.7メートル毎秒)以上にならないと「タイフーン - Typhoon」とは呼ばれない。これは最大風速による分類の規程によれば、それぞれの名称による最小のものでも、約二倍の強さの違いである。そのため「タイフー」と聞くと、より強い警戒心が湧く。
  しかし、気象専門家でない一般の人にとっては、このような決め方のあることを知らない方が普通である。一つの例としては、和英辞典で台風の英語訳を引くと Typhoonと出ているのを見る。単に言語障壁または異文化といって笑える問題ではない。
(C)2001 KATOW-Kimio

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